木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

椅子の主

この世に生まれ落ちた瞬間、一つの席を与えられた。

 

臆病者の席だ。

傍観者の席だ。

半端者の席だ。

敗北者の席だ。

 

選んだ覚えはない。

望んだ覚えもない。

 

選ばれた覚えはない。

望まれた覚えもない。

 

自分で選んだ席ではないから、満たされない。

自分が望んだ席ではないから、受け入れられない。

 

誰かに選ばれた席ではないから、満たされない。

誰かに望まれた席ではないから、受け入れられない。

 

 

 

だからこそ、人は奪い合う。

だからこそ、人は貶し合う。

だからこそ、人は騙し合う。

だからこそ、人は殺し合う。

 

 

 

選びたかったから。

選べなかったから。

選ばれたかったから。

選ばれなかったから。

 

望みたかったから。

望めなかったから。

望まれたかったから。

望まれなかったから。

 

 

 

本物でありたかったから。

本物ではなかったから。

本物になりたかったから。

本物になれなかったから。

 

特別でありたかったから。

特別ではなかったから。

特別になりたかったから。

特別になれなかったから。

 

 

 

勝手に並べて、勝手に失望して。

勝手に比べて、勝手に絶望して。

 

誰かの幸福ばかりを見つめて、己の幸福を見失ってはいないだろうか。

誰かの生命ばかりを見つめて、己の生命を見誤ってはいないだろうか。

 

 

 

あなたは、誰も選ばない席を与えられたのだ。

あなたは、誰も望まない席を与えられたのだ。

 

あなたは、誰も選ばれなかった席を与えられたのだ。

あなたは、誰も望まれなかった席を与えられたのだ。

 

あなたの席は、あなただけのものだ。

あなたの席には、あなた以外は座ることが出来ない。

 

その椅子の主は、あなただ。

その椅子の主は、あなただけだ。

 

 

 

その椅子は、あなたの揺籠である。

その椅子は、あなたの墓場である。

 

その椅子に、花を添えるか。

その椅子に、唾を吐き捨てるか。

 

全ては、あなた次第だ。

 

 

 

存在を、示せ。

存在を、誇れ。

 

 

 

この世に、空席はない。