木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

模倣犯

始まりは、ただの憧れだった。

 

あの人のようになりたかった。

あの人のように生きたかった。

 

本当に、ただそれだけだった。

 

あの人のようにすれば、あの人のようになれる。

あの人のようにすれば、あの人のように生きられる。

 

あの人のようになれば、笑われない。

あの人のようになれば、怒られない。

あの人のようになれば、嫌われない

あの人のようになれば、失敗しない。

 

そんな子どもみたいな動機で、人の真似をすることを覚えた。

 

 

 

始まりは、ただの憧れだった。

 

あの人のようになりたかった。

あの人のように生きたかった。

 

本当に、ただそれだけだった。

 

ただそれだけの為に、繕った。

ただそれだけの為に、戦った。

ただそれだけの為に、頑張った。

ただそれだけの為に、生きてきた。

 

それでも、あの人のようにはなれなかった。

 

繕おうとすればする程、綻びが生まれてしまった。

戦おうとすればする程、恐怖が生まれてしまった。

頑張ろうとすればする程、もう嫌だと思うようになってしまった。

生きようとすればする程、死にたいと思うようになってしまった。

 

もしかしたら、あの人もこんな気持ちを抱えて生きていたのだろうか。

もしかしたら、あの人も完璧ではなかったのかもしれない。

 

何れにせよ、あの人のようにはなれなかった。

何れにせよ、あの人のようには生きられなかった。

 

あの人のようになりたかった過去と、あの人のようになれなかった現実だけが残った。

 

 

 

始まりは、ただの憧れだった。

 

あの人のようになりたかった。

あの人のように生きたかった。

 

本当に、ただそれだけだった。

 

ずっと誰かの真似をして生きてきた罰だろうか。

ずっと誰かの生き方に寄生していた罰だろうか。

 

他の誰かのことを追い続けるうちに、自分のことが何も分からなくなってしまった。

あの人のようにはなれなかった上に、自分の本来の姿さえ見失ってしまった。

 

あの人のお陰で今がある。

あの人の所為で今がある。

 

あの人のお陰で。

あの人の所為で。

あの人に憧れたお陰で。

あの人に憧れてしまった所為で。

 

少しずつ、あの人のお陰とは思えなくなった。

少しずつ、あの人の所為だと思うようになった。

 

誰かの所為にしなければ、耐えることが出来なかった。

誰かの所為にしなければ、生きることが出来なかった。

 

いつの間にか、純粋な子どもは不純な大人になった。

 

いつの間にか、憧れは嫉妬に形を変えた。

 

 

 

 

 

勝手に期待して、勝手に都合の良い幻想を作り上げて。

勝手に近付いて、勝手に理解したような気になって。

勝手に錯覚して、勝手に裏切られたような気になって。

勝手に失望して、勝手な理想だけを押し付けて離れていく。

 

剥がれ落ちた鍍金の下から覗く薄汚いその顔が、お前の本性だ。

誰かの真似を続けることで空っぽになったその心が、お前の本性だ。

 

憧れという言葉を履き違えて、自分と向き合うことから逃げた負け犬だ。

自分のことを蔑ろにして、自分のことさえも見失ってしまった哀れな獣だ。

 

お前は、自分のことだけを考えているただの子どもだ。

お前は、責任から逃れることだけを考えているただの大人だ。

 

お前は、ただの模造品だ。

 

お前は、誰かを殺して生き残っているただの罪人だ。

お前は、自分を殺した罪を受け入れられないただの咎人だ。

 

お前は、ただの模倣犯だ。

 

 

 

 

 

始まりは、ただの憧れだった。