木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

月が輝いている

今宵も、月が輝いている。

今宵も、満たされた顔で此方を見下している。

 

全くもって、気に入らない。

直ぐにでも、彼処から引き摺り下ろしてやりたい。

 

一人では輝くことも出来ない癖に、満たされた顔で僕を見下ろすな。

僕と似ている癖に、満たされた顔で僕を見下ろすな。

 

満たされない僕が、悪いみたいじゃないか。

満たされたい僕が、馬鹿みたいじゃないか。

 

 

 

今宵も、月が輝いている。

今宵も、ニヤついた顔で此方を見下している。

 

全くもって、気に入らない。

直ぐにでも、彼奴を八つ裂きにしてやりたい。

 

一人で変わることも出来ない癖に、ニヤついた顔で僕を見下ろすな。

僕と似ている癖に、ニヤついた顔で僕を見下ろすな。

 

上手く笑えない僕が、悪いみたいじゃないか。

上手く笑いたい僕が、馬鹿みたいじゃないか。

 

 

 

 

今宵は、月が隠れている。

今宵は、僕を見下すものは誰もいない。

 

全くもって、気に入らない。

今日に限って、彼奴はどうして彼処にいない。

 

一人で死ぬことを選んだ僕を、いったい誰が引き止めてくれるというのだ。

一人で死ぬことも出来ない僕を、いったい誰が看取ってくれるというのだ。

 

死にたい僕が、悪いみたいじゃないか。

生きたい僕が、馬鹿みたいじゃないか。

 

 

 

 

僕は、月に嫉妬している。

一人では輝くことが出来ない癖に、満たされた顔をしている月に嫉妬している。

 

僕はただ、満たされないだけなのに。

僕はただ、満たされたいだけなのに。

 

僕は夜空に浮かぶ飾り物の月に焦がれた挙句、堕ちてしまった哀れな獣だ。

 

僕は、知性の欠片も無い、野性のケダモノだ。

僕は、己の欲望を満たすことばかりを考えている、野性のケダモノだ。

 

 

 

僕は、月に愛執している。

一人では輝くことが出来ない癖に、ニヤついた顔をしている月に愛執している。

 

僕はただ、上手く笑えないだけなのに。

僕はただ、上手く笑いたいだけなのに。

 

 

僕は水面に映る紛い物の月に焦がれた挙句、溺れてしまった哀れな獣だ。

 

僕は、感性の欠片も無い、理性のバケモノだ。

僕は、己の欲望を秘めることばかりを考えている、理性のバケモノだ。

 

 

 

 

 

僕は、己が野性のケダモノであることを受け入れられない。

僕は、己が理性のバケモノであることを受け入れられない。

 

僕は、何者でもない。

僕は、何者にもなれない。

 

僕はただ、満たされたいだけなのに。

僕はただ、笑っていたいだけなのに。

 

僕はただ、生きたいだけなのに。

僕はただ、生きていたいだけなのに。

 

 

 

 

 

今宵も、月が輝いている。