木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

本懐

何かを書くことが出来ず、何かを消すことも出来ない。

何かを作ることが出来ず、何かを壊すことも出来ない。

何かを繋ぐことも出来ず、何かを切ることも出来ない。

何かを結ぶことが出来ず、何かを解くことも出来ない。

 

全てを許すことが出来ず、全てを拒むことも出来ない。

全てを救うことが出来ず、全てを殺すことも出来ない。

全てを信じることが出来ず、全てを疑うことも出来ない。

全てを愛することが出来ず、全てを憎むことも出来ない。

 

 

 

虚しくて、渇きそうだ。

寂しくて、凍えそうだ。

苦しくて、吐きそうだ。

悔しくて、死にそうだ。

 

 

 

だからこそ、何度でも書き直す。

だからこそ、何度でも作り直す。

だからこそ、何度でも繋ぎ直す。

だからこそ、何度でも結び直す。

 

だからこそ、何度でも許す。

だからこそ、何度でも救う。

だからこそ、何度でも信じる。

だからこそ、何度でも愛する。

 

 

 

だからこそ、まだ抗える。

だからこそ、まだ戦える。

 

だからこそ、まだ生きられる。

だからこそ、まだ死ねない。

 

 

 

何度も失敗しながら、此処まで歩んできた。

何度も後悔しながら、今日まで生きてきた。

 

出来損ないなりに、此処まで歩んできた。

死に損ないなりに、今日まで生きてきた。

 

 

 

 

 

枯れた声を振り絞って、それでも歌いたいことは何だ。

折れた筆を握り締めて、それでも描きたいものは何だ。

慣れた傷を舐め合って、それでも生きている理由は何だ。

擦れた心を庇いながら、それでも生きていく意味は何だ。

 

 

 

 

 

本能を手放すな。

本望を見失うな。

 

本心を疑うな。

本懐を忘れるな。

 

 

 

 

 

まだ、やれる。

また、やれる。

 

まだ、殺すな。

もう、殺すな。

 

 

 

まだ、死ぬな。

ただ、死ぬな。

 

まだ、生きろ。

ただ、生きろ。

 

 

 

メメントモリ

あとどれくらい、立っていられるのだろう。

あとどれくらい、座っていられるのだろう。

あとどれくらい、起きていられるのだろう。

あとどれくらい、眠っていられるのだろう。

 

あとどれくらい、走っていられるのだろう。

あとどれくらい、歩いていられるのだろう。

あとどれくらい、転んでいられるのだろう。

あとどれくらい、倒れていられるのだろう。

 

あとどれくらい、咲いていられるのだろう。

あとどれくらい、枯れていられるのだろう。

あとどれくらい、舞っていられるのだろう。

あとどれくらい、腐っていられるのだろう。

 

あとどれくらい、笑っていられるのだろう。

あとどれくらい、泣いていられるのだろう。

あとどれくらい、戦っていられるのだろう。

あとどれくらい、逃げていられるのだろう。

 

 

 

あとどれくらい、友を信じていられるのだろう。

あとどれくらい、人を疑っていられるのだろう。

あとどれくらい、罪を抱えていられるのだろう。

あとどれくらい、罰を数えていられるのだろう。

 

あとどれくらい、夢を描いていられるのだろう。

あとどれくらい、現を嘆いていられるのだろう。

あとどれくらい、愛を探していられるのだろう。

あとどれくらい、嘘を許していられるのだろう。

 

 

 

 

あとどれくらい、あなたを想っていられるのだろう。

あとどれくらい、あなたに触れていられるのだろう。

あとどれくらい、あなたを愛していられるのだろう。

あとどれくらい、あなたと生きていられるのだろう。

 

あとどれくらい、あなたを覚えていられるのだろう。

あとどれくらい、あなたを忘れていられるのだろう。

あとどれくらい、あなたは此処にいられるのだろう。

あとどれくらい、あなたと此処にいられるのだろう。

 

 

 

 

 

あとどれくらい、生を感じられるのだろう。

あとどれくらい、死を恐れられるのだろう。

 

 

 

あとどれくらい、生きていられるのだろう。

 

 

 

影送り

あの空の向こうに、あなたはいるのだろうか。

どの雲の向こうに、あなたがいるのだろうか。

 

澄み渡る空の季節を越えて、あなたを探す。

溶け残る雲の隙間を抜けて、あなたを探す。

 

あの空の向こうには、きっとあなたはいない。

どの雲の向こうにも、きっとあなたはいない。

 

翳りゆく空は姿を変えて、あなたを隠す。

霞みゆく雲は形を変えて、あなたを隠す。

 

 

 

一人で歩いた帰り道と、二人で歩いた帰り道。

 

一人で遊んだ影送りと、二人で遊んだ影送り。

 

一人で結んだ約束と、二人で結んだ約束。

 

一人で過ごした思い出と、二人で過ごした思い出。

 

 

 

あの日の残像が胸を巡る。

あの日の残像が胸を破る。

 

思い出ばかりが胸を巡る。

思い出ばかりが胸を破る。

 

あなたはもう、此処にはいない。

あなたはもう、何処にもいない。

 

あなたは、いない。

あなたが、いない。

 

 

 

 

 

二人で歩いた帰り道を、まだ覚えている。

 

二人で遊んだ影送りを、まだ覚えている。

 

二人で結んだ約束を、まだ覚えている。

 

二人で過ごした思い出を、まだ覚えている。

 

 

 

あなたが消えないように、影の中に思い出を閉じ込めよう。

あなたを忘れないように、影の中で思い出を抱き締めよう。

 

あなたに届くように、何度でも影を送ろう。

あの日と同じように、何度でも影を繋ごう。

 

 

 

いつも、影が傍にいる。

いつも、影は共にある。

 

 

 

 

 

一人でも、大丈夫。

二人なら、大丈夫。

 

 

 

線香花火、最後の夜

ちゃんと、心は決めた。

ちゃんと、覚悟は決めた。

 

それでも、どうしても別れの朝は悲しくなってしまう。

それでも、どうしても最後の夜は愛しくなってしまう。

 

ちゃんと、見送ると決めた。

ちゃんと、見届けると決めた。

 

だけど、きっと目が覚めたらあなたの気配を探してしまう。

だけど、きっと夜が明けたらあなたは何処かへ行ってしまう。

 

 

 

あなたは、もう振り向かない。

あなたは、もう振り返らない。

 

引き止めることなんて、出来ない。

追い掛けることなんて、出来ない。

 

此処からは、一人で歩いて行く。

此処からは、一人で歩いて行ける。

 

これからは、一人で生きていく。

これからは、一人で生きていける。

 

 

 

 

 

ちゃんと、心は決めた。

ちゃんと、覚悟は決めた。

 

それでも、どうしても別れの朝は悲しくなってしまう。

それでも、どうしても最後の夜は愛しくなってしまう。

 

ちゃんと、見送ると決めた。

ちゃんと、見届けると決めた。

 

だから、ずっとあなたの残り香を忘れないように生きていこう。

だから、ずっとあなたの残り火を絶やさないように生きていこう。

 

 

 

 

 

せめて、日が揺れるまでは此処にいて下さい。

せめて、日が暮れるまでは此処にいて下さい。

 

せめて、夜が更けるまでは此処にいて下さい。

せめて、夜が明けるまでは此処にいて下さい。

 

 

 

どうか、日が揺れるまで此処にいさせて下さい。

どうか、日が暮れるまで此処にいさせて下さい。

 

どうか、夜が更けるまで此処にいさせて下さい。

どうか、夜が明けるまで此処にいさせて下さい。

 

 

 

せめて、もう少しだけ。

せめて、あと少しだけ。

 

どうか、もう少しだけ。

どうか、あと少しだけ。

 

 

 

 

 

せめて、この火が落ちるまで。

どうか、この火が消えるまで。

 

 

 

もう、少しだけ。

あと、少しだけ。

 

 

 

いつものように

いつも、無力な自分を憎んでばかりだ。

いつも、無能な自分を恨んでばかりだ。

 

いつも、無念の日々を過ごすばかりだ。

いつも、無情な現実を恐れてばかりだ。

 

想いを募らせるばかりでは何も伝わらない。

夢を描き続けるばかりでは何も始まらない。

 

遠い過去を悔やむばかりでは何も変わらない。

失うことを恐れてばかりでは何も始まらない。

 

 

 

いつも、無力な誰かを笑ってばかりだ。

いつも、無能な誰かを蔑んでばかりだ。

  

いつも、無害な人間を装ってばかりだ。

いつも、無実の人生に憧れてばかりだ。

 

感情を吐き出すばかりでは誰も救われない。

言葉を突き刺すばかりでは誰も救われない。

 

犯した罪を悔やむばかりでは何も報われない。

己の罰から逃げるばかりでは何も報われない。

 

 

 

そんなことは、知っている。

そんなことは、分かっている。

 

 

 

それでも、それなりに現実を生きている振りをする。

それでも、それなりの人生を生きている振りをする。

 

それでも、それなりの生活で満たされた振りをする。

それでも、それなりの幸福で満たされた振りをする。

 

 

 

自分のことで足踏みするような、つまらない人間になってはいないか。

誰かのことを値踏みするような、くだらない人間になってはいないか。

 

 

 

まだ、大丈夫か。

本当に、大丈夫か。

 

 

 

 

 

いつものように、今日が終わる。

いつものように、明日が始まる。

 

 

 

 

 

家路

見送るは、愛しき思い出。

見守るは、哀しき夕暮れ。

 

 

 

別れを告げる鐘が鳴る町。

聞き慣れた歌が響く公園。

 

カレーの匂いが漂う帰り道。

再会を誓い合った分かれ道。

 

泥だらけの靴と汗塗れの服。

泥だんごの罅と初めての恋。

 

傷だらけの掌と母の眼差し。

握り締めた拳と父の言の葉。

 

 

 

果たせた約束と、果たせなかった約束。

気付けた幸せと、気付けなかった幸せ。

 

 

 

 

 

見送るは、愛しき思い出。

見守るは、哀しき夕暮れ。

 

抱き締めるは、遠き日の温もり。

噛み締めるは、家路を急ぐ幸せ。

 

 

 

 

 

泥だらけでも、何度でも歩き出せる。

傷だらけでも、何度でも立ち上がれる。

 

あの日のように。

あの頃のように。

 

 

 

 

 

家まで、あと少し。

 

 

 

白い渦

誰もが己の正義を疑わない。

誰もが己の誤謬を認めない。

 

誰もが己の罪を受け入れない。

誰もが己の罰を受け止めない。

 

 

 

「誰にも嫌われたくない」

「誰かを嫌う勇気もない」

 

いつの間にか、そんなことさえ言えなくなってしまった。

いつの間にか、そんなことさえ言わなくなってしまった。

 

 

 

他人の不幸で飯が美味い。

自分の不幸で飯が不味い。

 

他人の不幸は、蜜の味。

自分の不幸は、毒の味。

 

全くもって、最高の人生だ。

全くもって、最低の人生だ。

 

これが、最善の人生だ。

これは、最悪の人生だ。

 

 

 

蜷局を巻きながら、埋まらない空白を抱き締めている。

蜷局を巻きながら、気に入らない全てを切り裂いていく。

 

肩を震わせながら、埋まらない空白を抱き締めている。

肩を震わせながら、気に入らない全てを呑み込んでいく。

 

何もかもを切り裂いて、生きてきた。

何もかもを呑み込んで、生きてきた。

 

そして、一人になった。

そして、誰もいなくなった。

 

 

 

思い出を脱ぎ捨てて、何度でも季節は移り変わる。

現実を受け入れて、何度でも心は生まれ変わる。

 

何処までもいけるような気がしていたあの日は、もう戻らない。

何処までもいけるような気がしていたあの日には、もう戻れない。

 

 

 

ただただ、切り裂かれていく。

 

夥しい数の汚れなき正義が蠢く、白い渦の中で。

夥しい数の汚れなき誤謬が蠢く、白い渦の中で。

 

夥しい数の汚れなき罪が蠢く、白い渦の中で。

夥しい数の汚れなき罰が蠢く、白い渦の中で。

 

 

 

ただただ、呑み込まれていく。

 

夥しい数の汚れなき正義が蠢く、白い渦の中へ。

夥しい数の汚れなき誤謬が蠢く、白い渦の中へ。

 

夥しい数の汚れなき罪が蠢く、白い渦の中へ。

夥しい数の汚れなき罰が蠢く、白い渦の中へ。

 

 

 

白い渦の中へ、堕ちていく。

白い渦の中で、殺し合いを始めよう。

 

 

 

 

 

その輪を、越えていけ。