木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

胡蝶の夢

また、この夢だ。

 

 

 

思うように思考を纏めることが出来ない。

思うように身体を動かすことが出来ない。

 

思うように言葉を紡ぐことが出来ない。

思うように表情を作ることが出来ない。

 

 

 

どうして、あと一言を言い出すことが出来ない。

どうして、あと一歩を踏み出すことが出来ない。

 

どうして、あと一幕を乗り切ることが出来ない。

どうして、あと一節を書き切ることが出来ない。

 

どうして、ただ一人を守り抜くことが出来ない。

どうして、ただ一人を愛し抜くことが出来ない。

 

どうして、まだ一人を忘れ去ることが出来ない。

どうして、また一人を思い出すことが出来ない。

 

 

 

どうして、過去を救うことが出来ない。

どうして、未来を願うことが出来ない。

 

どうして、上手く笑うことが出来ない。

どうして、上手く生きることが出来ない。

 

 

 

こんな自分は、嫌だ。

こんな世界は、嫌だ。

 

何もかも、最悪だ。

何もかも、最低だ。

 

こんな自分は、嘘だ。

こんな世界は、嘘だ。

 

何もかも、幻想だ。

何もかも、空想だ。

 

 

 

 

 

 

 

また、この夢か。

 

 

 

 

 

ここは、何処だ。

 

 

 

珈琲

珈琲を苦いと思わなくなった時。

少しだけ、大人になれた気がした。

 

夜空を暗いと思わなくなった時。

少しだけ、孤独に慣れた気がした。

 

夢想を尊いと思わなくなった時。

少しだけ、現実を知った気がした。 

 

自分を強いと思わなくなった時。

少しだけ、真実に触れた気がした。

 

 

 

感覚か、感性か。

思想か、言葉か。

理想か、現実か。

世界か、人間か。

 

あなたか、僕か。

 

 

 

 

 

変わってしまったものは、何だ。

失くしてしまったものは、何だ。

 

 

 

カウントダウン

止まらぬ季節の道端で、時計の針に目を凝らしている。

終わらぬ世界の片隅で、鼓動の音に耳を澄ませている。

 

遠い日の面影が、じっと睨み付けてくる。

遠い日の面影が、そっと語り掛けてくる。

 

変わらぬ景色の庭園で、孤独の沼に足を取られている。

染まらぬ記憶の奥底で、貴方の頬に手を伸ばしている。

 

遠い日の面影が、ずっと絡み付いている。

遠い日の面影に、ずっと縋り付いている。

 

 

 

温度も、鮮度も、粘度も、感度も。

 

片時も忘れぬように、瞼の裏に焼き付けてある。

片時も離さぬように、胸の奥に仕舞い込んである。

 

何度も、何度も、何度も、何度も。

 

片時も薄れぬように、心の底に刻み付けている。

片時も離れぬように、命の傍に括り付けている。

 

 

 

 

 

チクタク、チクタク。

 

懐中時計は、止まらない。

 

 

 

 

 

少しずつ、少しずつ。

 

涙が渇く音がする。

 

少しずつ、少しずつ。

 

心が歪む音がする。

 

少しずつ、少しずつ。

 

体を蝕む音がする。

 

少しずつ、少しずつ。

 

命を削る音がする。

 

 

 

 

 

 

カウントダウンは、止まらない。

 

 

 

生涯泥棒

誰かの初恋を盗む。

誰かの失恋を盗む。

 

誰かの憂鬱を盗む。

誰かの不安を盗む。

 

誰かの反省を盗む。

誰かの後悔を盗む。

 

誰かの言葉を盗む。

誰かの感情を盗む。

 

 

 

誰かの憧憬を盗む。

誰かの喪失を盗む。

 

誰かの不幸を盗む。

誰かの幸福を盗む。

 

誰かの絶望を盗む。

誰かの希望を盗む。

 

誰かの追憶を盗む。

誰かの人生を盗む。

 

 

 

 

 

一つ盗む度に、一つ罪に飽きていく。

一つ盗む度に、一つ心が擦れていく。

 

一つ盗む度に、一つ塵が増えていく。

一つ盗む度に、一つ欲が増していく。

 

 

 

この欲に、限りなどない。

この欲に、終わりなどない。

 

この欲に、意味などない。

この欲に、理由などない。

 

 

 

 

 

どうせいつかは死ぬのなら、欲しいものは手に入れたい。

どうせいつかは死ぬのなら、好きなことはやり続けたい。

 

 

 

 

 

風呂敷の中身が満たされる、その日まで。

底無しの欲望が満たされる、その日まで。

 

 

 

 

 

盗んで、生きる。

求めて、生きる。

 

盗んで、消えろ。

笑って、消えろ。

 

 

 

 

 

裁いてみせろよ、神様。

足掻いてみせろよ、人間。

 

 

 

二束三文

金にもならない顔を洗って、

金にもならない髪を梳いて、

金にもならない垢を落して、

金にもならない糞を出して、

 

金にもならない詩を書いて、

金にもならない歌を作って、

金にもならない舞を踊って、

金にもならない絵を描いて、

 

金にもならない汗を流して、

金にもならない涙を飲んで、

金にもならない声で叫んで、

金にもならない夜を越えて、

 

金にもならない夢を抱いて、

金にもならない嘘を吐いて、

金にもならない愛を知って、

金にもならない今を生きて。

 

 

 

何にもなれない己を恥じて、

何にもなれない己を嘆いて、

何にもなれない己を憎んで、

何にもなれない己を殺して。

 

 

 

 

 

僕は一体、何がしたいんだろう。

僕は一体、何をしているんだろう。

 

 

 

輪郭を失くした、その後で

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

大切な笑顔を、残しておきたかった。

大切な景色を、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

大切な時間を、残しておきたかった。

大切な瞬間を、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

離れないように、残しておきたかった。

逸れないように、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

壊れないように、残しておきたかった。

忘れないように、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

少しでも多く、残しておきたかった。

少しでも長く、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

少しでも美しく、残しておきたかった。

少しでも鮮やかに、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

もう二度と戻らないと知っていたから。

もう二度と戻れないと知っていたから。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

もう二度と戻らないと知っていたのに。

もう二度と戻れないと知っていたのに。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

 

 

あなたのことを見つめている振りをしていた。

あなたのことを分かっている振りをしていた。

 

何も見えていなかった。

何も分かっていなかった。

 

 

 

 

 

やっと、気付いた。

やっと、分かった。

 

あなたが輪郭を失くした、その後で。

あなたの世界が終わった、その後で。

 

 

 

 

 

いつだって、出会いは遅過ぎる。

いつだって、別れは早過ぎる。

 

いつだって、僕は遅過ぎる。

いつだって、時は速過ぎる。

 

 

 

 

 

あなたはもう、何処にもいない。

 

 

 

 

 

 

 

ファインダーばかりを覗き込んでいる。

 

 

 

風船

ありとあらゆる感情を飲み込んで。

ありとあらゆる現状を受け入れて。

 

ありとあらゆる幻想を飲み込んで。

ありとあらゆる現実を受け入れて。

 

膨れ上がったこの心で、何処まで飛べるのだろう。

膨れ上がったこの心で、何処まで行けるのだろう。

 

破裂しそうなこの心で、何時まで戦えるのだろう。

破裂しそうなこの心で、何時まで生きられるのだろう。

 

 

 

今日も、空が青い。

今日も、雲が白い。

 

今日も、空が遠い。

今日も、雲が疾い。

 

 

 

この体から漏れ出す瓦斯で、どれくらい空を飾ることが出来るだろう。

この体から漏れ出す瓦斯で、どれくらい雲を汚すことが出来るだろう。

 

この世界で、何を壊すことが出来るだろう。

この世界に、何を遺すことが出来るだろう。

 

 

 

 

 

この世界で、何が出来るだろう。

この世界に、何が出来るだろう。