木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

輪郭を失くした、その後で

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

大切な笑顔を、残しておきたかった。

大切な景色を、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

大切な時間を、残しておきたかった。

大切な瞬間を、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

離れないように、残しておきたかった。

逸れないように、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

壊れないように、残しておきたかった。

忘れないように、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

少しでも多く、残しておきたかった。

少しでも長く、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

少しでも美しく、残しておきたかった。

少しでも鮮やかに、残しておきたかった。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

もう二度と戻らないと知っていたから。

もう二度と戻れないと知っていたから。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

もう二度と戻らないと知っていたのに。

もう二度と戻れないと知っていたのに。

 

ファインダーばかりを覗き込んでいた。

 

 

 

あなたのことを見つめている振りをしていた。

あなたのことを分かっている振りをしていた。

 

何も見えていなかった。

何も分かっていなかった。

 

 

 

 

 

やっと、気付いた。

やっと、分かった。

 

あなたが輪郭を失くした、その後で。

あなたの世界が終わった、その後で。

 

 

 

 

 

いつだって、出会いは遅過ぎる。

いつだって、別れは早過ぎる。

 

いつだって、僕は遅過ぎる。

いつだって、時は速過ぎる。

 

 

 

 

 

あなたはもう、何処にもいない。

 

 

 

 

 

 

 

ファインダーばかりを覗き込んでいる。