木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

言ったじゃないか

恋人を作れば分かると言ったじゃないか。

 

手紙を書けば分かると言ったじゃないか。

 

友達に聞けば分かると言ったじゃないか。

 

文集を読めば分かると言ったじゃないか。

 

 

 

場数を踏めば分かると言ったじゃないか。

 

明日が来れば分かると言ったじゃないか。

 

大人になれば分かると言ったじゃないか。

 

世界を知れば分かると言ったじゃないか。

 

 

 

 

 

生きてみれば分かると言ったじゃないか。

 

生きていれば分かると言ったじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

何時も、何時も。

 

分からないことばかりじゃないか。

 

何時も、何時も。

 

分かりたいことばかりじゃないか。

 

 

 

誰も、彼も。

 

分かったような振りをしているだけじゃないか。

 

僕も、あなたも。

 

分かったような振りをしていただけじゃないか。

 

 

 

ドライアイス

孤独に濡れた心臓が凍て付いて、掌を擦り続けている。

 

容易く傷付いてしまうから、孤独なままが良かった。

 

孤独に慣れた心臓が焼け付いて、拳を握り締めている。

 

容易く傷付けてしまうから、孤独なままが良かった。

 

 

 

温度を求めた心臓が泣き付いて、腰を振り続けている。

 

容易く愛されてしまうなら、孤独なままで良かった。

 

温度を忘れた心臓が錆び付いて、頭を抱え込んでいる。

 

容易く救われてしまうなら、孤独なままで良かった。

 

 

 

 

 

正しさなんて、いらなかった。

 

憐れみなんて、いらなかった。

 

繋がりなんて、いらなかった。

 

温もりなんて、いらなかった。

 

 

 

生きているだけで良かった。

 

ただ、生きているだけで良かった。

 

それだけで良かった。

 

ただ、それだけで良かった。

 

 

 

 

 

凍傷になるくらい、熱い心で。

 

火傷をするくらい、冷めた心で。

 

命を、燃やせ。

 

命よ、燃えろ。

 

 

 

 

 

 

 

生きてきて、良かった。

 

生きていて、良かった。

 

 

 

夏が過ぎても、声を聴いても。

雨に濡れても、風に揺れても。

冬が過ぎても、恋に泣いても。

夜が更けても、肌に触れても。

 

心の隙間が埋まらない。

 

 

 

何を飲んでも、何を吐いても。

何を書いても、何を消しても。

何を作っても、何を壊しても。

何を求めても、何を捨てても。

 

心の隙間が埋まらない。

 

 

 

不意に泣いたり。

無理に笑ったり。

自棄になったり。

意地になったり。

 

心の在り方が分からない。

 

 

 

誰にも言えない。

誰にも見せない。

誰にも触れない。

誰にも渡せない。

 

心の在り方が分からない。

 

 

 

 

 

心の殺し方が、分からない。

 

心の救い方が、分からない。

 

 

 

結局、

空気を読めと言われ続けて。

本音を吐けと言われ続けて。

 

自信を持てと言われ続けて。

敬意を払えと言われ続けて。

 

旅人であれと言われ続けて。

大人になれと言われ続けて。

 

命を生かせと言われ続けて。

心を捨てろと言われ続けて。

 

 

 

その全てを受け入れて生きてきた。

その全てを受け止めて生きてきた。

 

その全てを噛み締めて生きてきた。

その全てを抱き締めて生きてきた。

 

 

 

 

 

一体、何を疑えば良かったのだろう。

一体、何を信じれば良かったのだろう。

 

一体、何を間違えたのだろう。

一体、何処で間違えたのだろう。

 

 

 

 

 

結局、何になりたかったのだろう。

結局、何処に行きたかったのだろう。

 

 

標本

この声が枯れることのないように、涙という釘を刺す。

 

この歌が褪せることのないように、情という釘を刺す。

 

この夢が醒めることのないように、嘘という釘を刺す。

 

この灰が燃えることのないように、戒という釘を刺す

 

この傷が癒えることのないように、生という釘を刺す。

 

この愛が消えることのないように、死という釘を刺す。

 

この命が尽きることのないように、罪という釘を刺す。

 

この心が染まることのないように、罰という釘を刺す。

 

 

 

 

 

どれだけ美しくても、意味がない。

 

どれだけ飾り付けても、意味がない。

 

 

 

忘れないだけでは、意味がない。

 

覚えているだけでは、意味がない。

 

 

 

 

 

全部、叩き潰してくれ。

 

全部、焼き尽くしてくれ。

 

 

 

誰か、僕を救ってくれ。

 

誰か、僕を殺してくれ。

 

 

 

 

 

誰か、僕を許してくれ。

 

 

 

海月

いずれは落ちる、コインのように。

いずれは朽ちる、落ち葉のように。

 

表も裏もなく、願っていたい。

嘘も誠もなく、笑っていたい。

 

いずれは馴染む、忌み名のように。

いずれは溶ける、海の月のように。

 

光も陰もなく、歌っていたい。

生も死もなく、戦っていたい。

 

 

 

いずれは褪せる、思い出のように。

いずれは爆ぜる、春の夢のように。

 

罪も罰もなく、生きていたい。

後も先もなく、生きていたい。

 

 

 

熱病

それは、眼が沸くような。

それは、耳が鳴るような。

それは、喉が灼けるような。

それは、頬が爛れるような。

 

それは、肉が腐るような。

それは、骨が軋むような。

それは、頭が割れるような。

それは、軀が燃えるような。

 

 

 

揺れる視界の中で、夢を見ている。

暮れる世界の中で、恋をしている。

 

褪せた野性と共に、旅をしている。

飢えた理性と共に、息をしている。

 

 

 

 

 

それは、息も忘れるような。

それは、時も忘れるような。

それは、涙も忘れるような。

それは、己も忘れるような。

 

 

 

熱に魘されている。

病に侵されている。

 

 

 

 

 

春に、溺れている。

 

春に、狂っている。