ひぐらしの声
あなたがいなくなって、もう何度目の夏でしょうか。
あの日からずっと、覚めない夢を見ているようです。
あの時は、つまらないことで泣いていました。
あの頃は、くだらないことで笑っていました。
そんな小さな幸せが当たり前のことなどではないと、わたしは知りませんでした。
そんな小さな幸せがかけがえのないものであると、わたしは知りませんでした。
あなたがいた時には、知り得ないことでした。
あなたがいた頃には、分からないことでした。
あなたと生きたことを忘れないように、いつまで生きていられるのでしょうか。
あなたがくれたものを忘れないように、どこまで歩いて行けるのでしょうか。
あなたの生きた日々は苦しいものだったのでしょうか。
わたしはあなたに何かを与えることが出来たのでしょうか。
もう二度と聞くことはないあなたの声を思い浮かべて、
あの夏の日と同じ場所でひぐらしの声を聞いています。
どれほど季節が巡ろうとも、わたしはあなたのことを忘れません。
どれだけ心が揺れようとも、わたしはあなたのことを忘れません。
あなたに会えて、わたしは幸せでした。
あなたに会えて、わたしは本当に幸せでした。
あなたと生きて、わたしは幸せでした。
あなたと生きて、わたしは本当に幸せでした。
ありがとう、愛しい人よ。
さようなら、愛しい人よ。
ありがとう、愛しい日々よ。
さようなら、愛しい日々よ。
ありがとう。
さようなら。
八月十二日。
今は亡き友へ捧ぐ。