夢
夢を見ることは容易いが、夢を見続けることは難しい。
幾つもの夢が、夢のままでその生涯を終えてしまった。
自分で生み出した筈の夢を、自分の手で殺してしまった。
知らず知らずのうちに、夢を見ることさえ恐れるようになってしまった。
夢は叶わないものなのだと悟った振りをした。
そして僕は、夢を見ることを辞めた。
夢の余韻がすぐに消えるわけもなく、夢と現実の狭間を彷徨っていた時、或るミュージシャンに出会った。
挫折や苦悩、絶望を乗り越えて。
愚直なまでに己の信念を貫いて。
ステージの上でギターを掻き鳴らして。
声を枯らしながら、彼は歌っていた。
夢を追い続ける人間はこんなにも美しく輝いて見えるものなのか、と衝撃を受けたことを今でも良く覚えている。
それまでの自分を全て否定されたような錯覚に陥ったが、不思議と悪い気はしなかった。
あの人のように、強くなりたいと思った。
あの人のように、生きてみたいと思った。
そして、一つの夢が生まれた。
僕には今、夢がある。
粗削りで幼い夢だが、大切に育んでいる。
何が正解で何が不正解かなんて分からない。
どんな結末が待っているのかも分からない。
周りの全ての人が味方というわけでもない。
夢を追うことで失くしてしまうものもある。
正直、不安に押し潰されそうになることもある。
もう駄目かもしれないと思ってしまうこともある。
それでも、やめるわけにはいかないのだ。
これはきっと、僕にとって最後の夢だから。
もうこれ以上、夢を殺すわけにはいかない。