柘榴
毒を呑み、蜜を吐く。
赤く熟れた果実は、摘み取られる。
蜜を呑み、毒を吐く。
黒く膿んだ果実は、棄て去られる。
頭から潰された果実が、血の花を咲かせている。
中身まで砕かれた果実が、血の海に浮かんでいる。
ゆっくりと時間をかけて産み落とされた生命が、誰にも知られず腹に還る。
ゆっくりと時間をかけて喰い尽くされた生命が、誰にも知られず土に還る。
息を呑み、唾を吐く。
赤く腫れた心臓は、切り取られる。
唾を呑み、息を吐く。
黒く焦げた心臓は、捨て置かれる。
細胞を潰された心臓が、血の花を咲かせている。
才能を砕かれた心臓が、血の海に浮かんでいる。
ゆっくりと時間をかけて産み落とされた魂が、誰にも知られず空に還る。
ゆっくりと時間をかけて喰い尽くされた魂が、誰にも知られず闇に還る。
赤子が、母親を呼ぶように。
母親が、赤子をあやすように。
腐り落ちていく果実が、僕を呼んでいる。
崩れ落ちていく世界が、僕を呼んでいる。
この世界に、己の血で花を咲かそう。
この世界に、己の血で海を作ろう。
この世界に、己の血で言葉を綴ろう。
この世界に、己の血で墓を築こう。
この世界に、己の血で生きた証を刻もう。
愚かなる生命よ、高らかに声を上げろ。
愚かなる魂よ、鮮やかに赤く染まれ。