木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

嘘吐き少年

初めて、嘘を吐いた。

大丈夫ではないのに、大丈夫だと言った。

 

初めて、嘘を吐いた。

本当のことではないのに、本当のことだと言った。

 

初めて、嘘を吐いた。

好きな人に、好きではないと言った。

 

初めて、嘘を吐いた。

好きでもない人に、好きだと言った。

 

 

 

何度も、嘘を吐いた。

 

白いものを白いと言えなくなった。

黒いものを黒いと言えなくなった。

良いことを良いと言えなくなった。

悪いことを悪いと言えなくなった。

 

眩しい朝を眩しいと言えなくなった。

虚しい夜を虚しいと言えなくなった。

綺麗なものを綺麗と言えなくなった。

汚いものを汚いと言えなくなった。

 

嬉しい時に嬉しいと言えなくなった。

優しい人に優しいと言えなくなった。

会いたい時に会いたいと言えなくなった。

愛しい人に愛しいと言えなくなった。

 

痛いことを痛いと言えなくなった。

苦しいことを苦しいと言えなくなった。

寂しいことを寂しいと言えなくなった。

悲しいことを悲しいと言えなくなった。

 

 

 

ありがとう、と言えなくなった。

ごめんなさい、と言えなくなった。

さようなら、と言えなくなった。

また明日、と言えなくなった。

 

生きたいのに、生きたいと言えなくなった。

生きていたいのに、生きていたいと言えなくなった。

 

 

 

簡単な言葉ほど、簡単に言えなくなった。

本当に伝えたい言葉ほど、素直に言えなくなった。 

 

気が付いたら、何も言えなくなっていた。

気が付いたら、誰もいなくなっていた。

 

 

 

死ねないから、生きたいと叫んでみた。

死んでいないから、生きてみたいと叫んでみた。

 

生きたいから、死にたいと呟いてみた。

生きていたいから、死んでみたいと呟いてみた。

 

 

 

 

 

僕は、笑いながら泣いた。