木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

思い出の正体

結局、昨夜は一睡も出来なかった。

存外、僕もなかなか繊細な心の持ち主だったらしい。

 

一晩かけて、生まれてから今までに出会った人たちのことを思い返していた。

家族や友人、今の僕に付き合ってくれている人たちから順番に、少しずつ遡った。

 

その行動に一体何の意味があるのか。

自分でも良く分かっていないが、そういう時間が必要だったのだと思う。

 

とりあえず僕は、記憶の海の中に潜ってみることにした。

 

 

 

 

 

ろくでもない自分を、生きて来た。

ろくでもない世界で、生きて来た。

 

ろくでもない毎日だが、幸せな出来事が幾つもある。

ろくでもない人生だが、大切な思い出が幾つもある。

 

夢中で駆け抜けた少年の日々。

夢を語り明かした青年の日々。

 

本当に大切で、失くしたくないものばかりだ。

 

全部を憎んでいるけれど、全部を愛している。

 

 

 

しかし、その思い出も永遠では無い。

 

時間が経つにつれて、美化されていく。

時間が経つにつれて、風化していく。

心と同じように、変わっていく。

命と同じように、終わっていく。

 

顔は覚えているけれど、名前が思い出せない。

名前は覚えているけれど、顔が思い出せない。

言葉は覚えているけれど、声が思い出せない。

声は覚えているけれど、言葉が思い出せない。

 

消えてしまったのか、色褪せてしまったのか。

今となっては、そんな思い出ばかりだ。

 

僕が大切にして来たつもりの思い出とは、一体何だったのだろう。

 

何かが欠落している記憶を、頭の中で都合良く補完して、思い出と呼んでいただけなのかもしれない。

 

そんな偽物の思い出を、僕はずっと信じていたのだろうか。

 

本物の思い出なんて、最初から何処にもなかったのだろうか。

 

 

 

 

 

思い出は美しい。

 

思い出は、変わることの出来ない僕たちを優しく見守っていてくれる。

思い出は、変わり続けることが宿命である僕たちの拠り所として其処にいてくれる。

 

だからこそ、縋ってしまう。

だからこそ、求めてしまう。

 

あの頃は良かった、なんて思ってしまう。

 

偽物か、本物か。

 

思い出の正体は、おざなりにして。

 

 

 

いつからか、記憶の中に住み着いている人。

いつまでも、記憶の中に住み着いている人。

 

あなたを思い出と呼んで、僕は今も生きている。

 

いつの間にか、会わなくなってしまった人。

いつの間にか、会えなくなってしまった人。

 

あなたを思い出と呼んで、僕はこれからも生きていく。

 

今更、会いたいなんて言わない。

今更、会いたいなんて言えない。

 

せめて、あなたが幸せでありますように。

どうか、あなたが幸せでありますように。

 

心の底から願っている。

 

 

 

 

 

どうか、生きていてくれ。

 

僕の愛しき思い出たちよ。