木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

此処ではない何処かへ

僕は旅が好きだ。

趣味と呼べるほどではないかもしれないが好きだ。

 

 

 

今日、或る街を初めて訪れた。

ずっと行ってみたいと思っていた街の一つだ。

 

結論から言うと、本当に素晴らしい街だった。

 

音楽、美術、文学、歴史。

芸術や文化が深く生活に根差している街だった。

 

決して、都会と呼べるような街ではない。

だけど、都会には無い美しさがある街だった。

 

穏やかに流れ過ぎていく時間を、噛み締めるような切なさがあった。

人生を縫い合わせていく感覚を、大切にするような温かさがあった。

 

街を生かして、街に生かされる。

そんな生活が、その街にはあった。

 

僕の暮らしている街とはまるで違う生活が、その街にはあった。

 

 

 

この街で生きることが出来るなら幸せだろう。

この街で死ぬことが出来るなら幸せだろう。

そんな妄想をしてしまうくらいに、僕にとっては理想的な場所だった。

住めば都とは言うけれど、僕にとっては住まずとも都と言えるような場所だった。

 

僕は、たったの一日で知らない街に恋をしてしまった。

 

この想いは、ただの一目惚れのようなものなのかもしれない。

この想いは、ただの恋患いのようなものなのかもしれない。

この想いも、明日には忘れてしまうかもしれない。

あの想いは、一時の気の迷いだったと何食わぬ顔で生きていくのかもしれない。

 

ただ、思い出で終わらせるなんて勿体無いと思えるような、素晴らしい出会いだった。

 

 

 

 

今この瞬間も、それぞれが、それぞれの場所で、それぞれの人生を生きている。

今この瞬間も、知らない誰かが、知らない場所で、知らない人生を生きている。

 

旅に出るということは、自分の知らない誰かの人生に触れる機会を持つということだ。

本来ならば出会うはずのなかった人と、出会うことの出来る運命を作り出すということだ。

 

誰かの生活に触れて、自らの生活を考える。

誰かの感情に触れて、自らの感情を考える。

誰かの人生に触れて、自らの人生を考える。

誰かの幸福に触れて、自らの幸福を考える。

 

そうして、人は心を育んでいく。

 

例え一人でも、心を育むことは出来ると思う。

 

しかし、世界を拒むことで見える景色があるのと同じように、世界に触れることで見える景色もあるのではないだろうか。

 

自らの作り上げた世界の小ささを思い知ることこそが、自らの作り上げた世界をより深く大きく進化させる為の糧になるのだ。

 

あなたが作り上げた箱庭のような世界など、壊してしまえば良い。

あなたを縛り付ける鳥籠のような世界など、壊してしまえば良い。

 

季節が何度も生まれ変わるように、心は何度でも生まれ変わる。

人間が何度も生まれ変わるように、あなたは何度でも生まれ変わる。

 

だから、心配はいらない。

 

旅に出よう。

 

あなたの知らない人が、あなたを待っている。

あなたの知らない場所が、あなたを待っている。

あなたの知らない考え方が、あなたを待っている。

あなたの知らない生き方が、あなたを待っている。

 

旅人になれ。

 

あなたの知らない、あなたに出会う為に。

 

 

 

 

 

世界の何処かで、あなたと会えたら。

ただの一人の旅人として、あなたと話がしたい。