木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

シュレッダー

言葉が、飲み込まれていく。

空白が、飲み込まれていく。

記憶が、飲み込まれていく。

感情が、飲み込まれていく。

 

一つ、また一つ。

 

大きな音を立てて、心が飲み込まれていく。

 

 

 

言葉が、引き裂かれていく。

空白が、引き裂かれていく。

記憶が、引き裂かれていく。

感情が、引き裂かれていく。

 

一つ、また一つ。 

 

大きな音を立てて、心が引き裂かれていく。

 

 

 

 

 

一つ、また一つ。

 

大きな音を立てて、心が破れていく。

 

一つ、また一つ。

 

大きな音を立てて、心が壊れていく。

 

 

 

 

 

どれだけ躍起になって、バラバラになった心を拾い集めてみても。

どれだけ必死になって、バラバラになった心を繋ぎ合わせてみても。

 

あの日の僕はもう、戻らない。

あの日の僕たちはもう、戻らない。

 

 

 

あの日々はもう、戻らない。

 

 

 

取り返すことは出来ない。

やり直すことも出来ない。

 

 

 

轟音の中で掻き消されてしまった断末魔を、誰も知らない。

現実の中で引き裂かれてしまった爆弾魔を、誰も知らない。

 

 

 

 

 

誰か、僕を見付けてくれ。

 

 

 

 

 

 

一つ、また一つ。

 

大きな音を立てて、心を吐き出している。

 

 

 

青い春

痛い。

 

些細なことで、傷付いた。

些細なことで、傷付けた。

 

痛い。

 

何気無い言葉で、傷付いた。

何気無い言葉で、傷付けた。

 

痛い。

 

些細な言葉で、傷付き合った。

些細な言葉で、傷付け合った。

 

痛い。

 

何気無い言葉で、傷付き合った。

何気無い言葉で、傷付け合った。

 

 

 

 

 

どんな行為が人を傷付けるのか。

どんな言葉が人を傷付けるのか。

 

あの頃は、何も知らなかった。

あの頃は、何も分からなかった。

 

 

 

知らなかった、では済まされない。

分からなかった、では済まされない。

 

犯した過ちは償わなければならない。

犯した過ちと向き合わなければならない。

 

 

 

 

 

僕も、あなたも。

 

数え切れないくらい、傷付いた。

数え切れないくらい、傷付けた。

 

僕も、あなたも。

 

癒えない古傷を抱えて、生きていかなければならない。

消えない傷痕を背負って、生きていかなければならない。

 

 

 

 

 

青い春は、血の匂いがする。

青い春は、死の気配がする。

 

 

 

 

 

傷付いたことを、忘れるな。

傷付けたことを、忘れるな。

 

 

 

 

 

 その痛みを、忘れるな。

 

 

 

刹那

刹那。

 

 

 

産声を上げる音。

汚れなき白い音。

 

誰にも望まれることなく、その生涯は幕を開ける。

誰にも讃えられることなく、その生涯は続いていく。

 

 

 

 

 

刹那。

 

 

 

断末魔を上げる音。

錆び付いた黒い音。

 

誰にも愛されることなく、その生涯は幕を閉じる。

誰にも看取られることもなく、その生涯を終えていく。

 

 

 

 

 

空が鳴く。

風が戦ぐ。

 

木が揺れる。

砂が踊る。

 

海が鳴る。

波が騒ぐ。

 

石が落ちる。

水が割れる。

 

 

 

例え声が無くても、歌う者がいる。

例え歌で無くとも、叫ぶ者がいる。

 

連鎖する刹那の中で、己の存在を証明する者がいる。

連鎖する刹那の中で、己の存在を証明することが出来る。

 

 

 

 

 

望まれることはなくとも。

讃えられることはなくとも。

 

愛されることはなくとも。

看取られることはなくとも。

 

声が無くても、歌い続けよう。

歌で無くとも、叫び続けよう。

 

何時までも響くように、心を揺らし続けよう。

何処までも響くように、命を鳴らし続けよう。

 

 

 

何度でも、運命に反逆しよう。

何度でも、存在を証明しよう。

 

 

 

 

 

刹那に生まれ、刹那に揺れる。

刹那を生きて、刹那に消える。

 

 

 

アルカナ

ほんの些細な幸福も気付けない癖に。

ほんの些細な幸福を噛み締めて良いものか。

 

ほんの些細な約束も果たせない癖に。

ほんの些細な約束に生かされて良いものか。

 

 

 

いつかは変わりゆくものだと知っていたなら。

いつかの幸福に気付くことが出来たのだろうか。

 

いつかは終わりゆくものだと知っていたなら。

いつかの約束を果たすことが出来たのだろうか。

 

 

 

 

 

幸福を掴んだ筈の掌で、幸福を握り潰した。

幸福を放した筈の掌で、幸福を包み直した。

 

約束を結んだ筈の指先で、約束を断ち切った。

約束を解いた筈の指先で、約束を繋ぎ直した。

 

 

 

 

 

僕は、あの日の幸福に殺されている。

僕は、あの日の幸福に救われている。

 

僕は、あの日の幸福を噛み締めている。

僕は、あの日の幸福に生かされている。

 

 

 

僕は、あの日の約束に殺されている。

僕は、あの日の約束に救われている。

 

僕は、あの日の約束を噛み締めている。

僕は、あの日の約束に生かされている。

 

 

 

 

いつも、不確かなものに殺されている。

いつも、不確かなものに救われている。

 

いつも、不確かなものを噛み締めている。

いつも、不確かなものに生かされている。

 

 

 

 

 

ほんの些細な幸福も気付けない僕も。

ほんの些細な幸福を噛み締めて良いものか。

 

ほんの些細な約束も果たせない僕も。

ほんの些細な約束に生かされて良いものか。

 

 

 

 

 

幸福は、いつも掌にある。

約束は、いつも指先にある。

 

 

 

この世の全ては、その手の中にある。

 

 

 

百日紅

もう、何も見ることが出来なくなるんじゃないか。

もう、何も聞くことが出来なくなるんじゃないか。

もう、何も触ることが出来なくなるんじゃないか。

もう、何も話すことが出来なくなるんじゃないか。

 

もう、何も書くことが出来なくなるんじゃないか。

もう、何も歌うことが出来なくなるんじゃないか。

もう、何も感じることが出来なくなるんじゃないか。

もう、何も信じることが出来なくなるんじゃないか。

 

 

 

もう、僕はとっくの昔に枯れているんじゃないか。

もう、僕はとっくの昔に枯れていたんじゃないか。

もう、僕はとっくの昔に死んでいるんじゃないか。

もう、僕はとっくの昔に死んでいたんじゃないか。

 

もう、僕はとっくの昔に変わっているんじゃないか。

もう、僕はとっくの昔に変わっていたんじゃないか。

もう、僕はとっくの昔に終わっているんじゃないか。

もう、僕はとっくの昔に終わっていたんじゃないか。

 

 

 

もう二度と、夜は明けないんじゃないか。

もう二度と、明日は来ないんじゃないか。

 

 

 

何も怖くない夜なんて、なかった。

何も怖くない朝なんて、なかった。

 

何も怖くない時なんて、なかった。

何も怖くない日なんて、なかった。

 

 

 

毎日、悲しい。

毎日、苦しい。

毎日、悔しい。

毎日、虚しい。

 

 

 

容易く生きれば、容易く吹き消される。

容易く死すれば、容易く片付けられる。

 

容易く生きれば、容易く忘れ去られる。

容易く死すれば、容易く思い出される。

 

 

 

人間なんて、一生不安だ。

人生なんて、一生不安だ。

 

人間なんて、一生不憫だ。

人生なんて、一生不憫だ。

 

 

 

 

 

こんな夜の闇に、潰されてたまるか。

こんな朝の光に、殺されてたまるか。

 

得体の知れない恐怖に、負けてたまるか。

名前も知らない不安に、負けてたまるか。

 

 

 

 

 

僕が死ねない理由は、友達の約束を果たす為だ。

僕が生きたい理由は、友達に遺言を告げる為だ。

 

 

 

残り僅かな昨日を、生きてきた。

残り僅かな今日を、生きている。

 

残り僅かな明日を、生きていく。

残り僅かな未来を、生きていく。 

 

 

 

 

 

百日の向こうで、生きている。

 

百日の向こうへ、生きていく。

 

 

 

 

 

もう、何も怖いものなんてなかった。

 

 

 

モノクロ

もう一度、金色に揺れる稲穂を見たかった。

もう一度、銀色に濡れる砂漠を見たかった。

もう一度、桜色に染まる水面を見たかった。

もう一度、緑色に溶ける木立を見たかった。

 

 

 

あの日、色が消えた。

あの日、光が消えた。

 

あの日、音が消えた、

あの日、声が消えた。

 

あの日、味が消えた。

あの日、夢が消えた。

 

あの日、熱が消えた。

あの日、愛が消えた。

 

 

 

あの日、心が消えた。

あの日、僕は消えた。

 

 

 

何もかもが、白い。

何もかもが、黒い。

 

 

 

もう、何も見えない。

もう、何も分からない。

 

 

 

もう一度、金色に揺れる稲穂を見たかった。

もう一度、銀色に濡れる砂漠を見たかった。

もう一度、桜色に染まる水面を見たかった。

もう一度、緑色に溶ける木立を見たかった。

 

 

 

 

 

もう一度、あなたに会いたかった。

 

 

 

言葉の森、詩人の墓

綴りたいことは「ありがとう」という言葉だけ。

綴りたいことは「さようなら」という言葉だけ。

綴りたいことは「ごめんなさい」という言葉だけ。

綴りたいことは「また、明日」という言葉だけ。

 

綴りたいことは、それだけ。

綴りたいことは、ただそれだけ。

 

遺したいものは「ありがとう」という想いだけ。

遺したいものは「さようなら」という想いだけ。

遺したいものは「ごめんなさい」という想いだけ。

遺したいものは「また、明日」という想いだけ。

 

遺したいものは、それだけ。

遺したいものは、ただそれだけ。

 

伝えたいことは「ありがとう」という言葉だけ。

伝えたいことは「さようなら」という言葉だけ。

伝えたいことは「ごめんなさい」という言葉だけ。

伝えたいことは「また、明日」という言葉だけ。

 

伝えたいことは、それだけ。

伝えたいことは、ただそれだけ。

 

届けたいものは「ありがとう」という想いだけ。

届けたいものは「さようなら」という想いだけ。

届けたいものは「ごめんなさい」という想いだけ。

届けたいものは「また、明日」という想いだけ。

 

届けたいものは、それだけ。

届けたいものは、ただそれだけ。

 

 

 

ただそれだけなのに、どうして上手く綴ることが出来ないのだろう。

ただそれだけなのに、どうして上手く遺すことが出来ないのだろう。

ただそれだけなのに、どうして上手く伝えることが出来ないのだろう。

ただそれだけなのに、どうして上手く届けることが出来ないのだろう。

 

たった一つの言葉を綴る為に、どうして幾つもの言葉が必要なのだろう。

たった一つの想いを遺す為に、どうして幾つもの想いが必要なのだろう。

たった一つの言葉を伝える為に、どうして幾つもの言葉が必要なのだろう。

たった一つの想いを届ける為に、どうして幾つもの想いが必要なのだろう。

 

 

 

綴ろうとすればするほど、上手く綴ることが出来なくなってしまう。

遺そうとすればするほど、上手く遺すことが出来なくなってしまう。 

伝えようとすればするほど、上手く伝えることが出来なくなってしまう。

届けようとすればするほど、上手く届けることが出来なくなってしまう。

 

言葉を知れば知るほど、言葉の森に迷い込んでしまう。

想いを知れば知るほど、想いの沼に沈み込んでしまう。

詩人になればなるほど、詩人の墓に追い込まれてしまう。

大人になればなるほど、人間の闇に飲み込まれてしまう。

 

 

 

だけど、それでも。

 

 

 

どうしても「ありがとう」の一言だけでは足りない。

どうしても「さようなら」の一言だけでは足りない。

どうしても「ごめんなさい」の一言だけでは足りない。

どうしても「また、明日」の一言だけでは足りない。

 

せめて「ありがとう」くらいは、ちゃんと言いたいじゃないか。

せめて「さようなら」くらいは、ちゃんと言いたいじゃないか。

せめて「ごめんなさい」くらいは、ちゃんと言いたいじゃないか。

せめて「また、明日」くらいは、ちゃんと言いたいじゃないか。

 

 

 

自分の言葉で、綴ることが出来るように。

自分の想いを、遺すことが出来るように。

 

自分の言葉で、伝えることが出来るように。

自分の想いを、届けることが出来るように。

 

 

 

今日も、言葉は森の中に在る。

今日も、詩人は墓の中に居る。

 

今日も、言葉の森を往く。

今日も、詩人は墓を掘る。

 

 

 

 

 

 

今日こそは、綴ることが出来るだろうか。

今日こそは、遺すことが出来るだろうか。

今日こそは、伝えることが出来るだろうか。

今日こそは、届けることが出来るだろうか。

 

 

 

 

 

今日こそは、ちゃんと言えるだろうか。