木霊、言霊。

備忘録か、遺言か、ラブレターか。

感覚が足りない

指の動作一つで世界を変えてしまうかもしれないという、感覚が足りない。

簡単に知らない人と繋がることが出来てしまうという、感覚が足りない。

自らの言葉一つで誰かを傷付けてしまうかもしれないという、感覚が足りない。

大切な人と結んだ約束ほど容易く解けてしまうという、感覚が足りない。

 

当たり前のことにさえ気が付くことが出来ない鈍い感覚に、一体どんな価値があるというのか。

失うことでしか気が付くことが出来ないような鈍い感覚に、一体どんな意味があるというのか。

 

どうせその程度の感覚しかないのならば、何を失っても気が付くことが出来ないくらい鈍い感覚であって欲しかった。

どうせいつかは悲しい思いをするのならば、何かを失う前に気が付くことの出来る鋭い感覚であって欲しかった。

 

より鈍い感覚を求めれば、世界は闇に染まる。

より鋭い感覚を求めれば、世界は光に染まる。

闇は僕を黒く塗り潰す。

光は僕を白く塗り潰す。

 

何れにせよ、何も見えなくなる。

 

自分自身の感覚を意識することでしか、自分自身の座標を確かめることは出来ない。

 

闇の中を行くなら、光を目印に。

光の中を行くなら、闇を目印に。

 

目指す場所は、光と闇の狭間にある。

 

 

 

僕は今、此処にいる。

 

お前は今、何処にいる。

夢を見ることは容易いが、夢を見続けることは難しい。

幾つもの夢が、夢のままでその生涯を終えてしまった。

自分で生み出した筈の夢を、自分の手で殺してしまった。

知らず知らずのうちに、夢を見ることさえ恐れるようになってしまった。

 

夢は叶わないものなのだと悟った振りをした。

 

そして僕は、夢を見ることを辞めた。

 

 

 

夢の余韻がすぐに消えるわけもなく、夢と現実の狭間を彷徨っていた時、或るミュージシャンに出会った。

挫折や苦悩、絶望を乗り越えて。

愚直なまでに己の信念を貫いて。

ステージの上でギターを掻き鳴らして。

声を枯らしながら、彼は歌っていた。

 

夢を追い続ける人間はこんなにも美しく輝いて見えるものなのか、と衝撃を受けたことを今でも良く覚えている。

それまでの自分を全て否定されたような錯覚に陥ったが、不思議と悪い気はしなかった。

あの人のように、強くなりたいと思った。

あの人のように、生きてみたいと思った。

 

そして、一つの夢が生まれた。

 

 

 

 

 

僕には今、夢がある。

粗削りで幼い夢だが、大切に育んでいる。

 

何が正解で何が不正解かなんて分からない。

どんな結末が待っているのかも分からない。

周りの全ての人が味方というわけでもない。

夢を追うことで失くしてしまうものもある。

 

正直、不安に押し潰されそうになることもある。

もう駄目かもしれないと思ってしまうこともある。

 

それでも、やめるわけにはいかないのだ。

これはきっと、僕にとって最後の夢だから。

 

 

 

もうこれ以上、夢を殺すわけにはいかない。

負け犬の遠吠え

勝ち組か負け組かで言えば、僕は間違いなく負け組だ。

 

劣等感が嫌いだった。

心の何処かで羨んでいる自分が悲しくて。

優越感が嫌いだった。

心の何処かで喜んでいる自分が醜くて。

 

比べることにも比べられることにも疲れて、戦うことから逃げ出した。

殺伐とした戦場で戦い続けられるほど、僕は強くなかった。

 

ただ、生き残る為には最善の策だったと思う。

負け惜しみにしか聞こえないと思うが、時には逃げることも必要なのだ。

 

少し傷は負ったけれど、僕はまだ生きている。

あの頃は、覚悟が足りなかった。

 

 

 

疲れた目をした大人たちは、その場所で戦い続けることを選んだ戦士たちの成れの果てだ。

その目は戦い続けた証だ。

その傷は敬意を払うべき勲章だ。

勝ち負けの問題ではなく、戦い続けるというのは本当に凄いことだ。

ただただ、憧れる。

ただただ、尊敬する。

僕も、本当はそんな風になりたかった。

 

 

 

 

 

戦いから逃げ出した者に、幸せは訪れるのだろうか。

戦うことから逃げ続けたその先に、幸せはあるのだろうか。

 

幸せになれない、とまでは言わない。

幸せの形は人それぞれで、その定義も酷く曖昧なものだから。

 

ただ、少なくとも戦い続けた者たちと同じ幸せを手に入れることは出来ない。

 

戦い続けたことで得られる幸せは、戦い続けることでしか手に入らない。

逃げ続ける者はもう、逃げ切ることでしか幸せを手に入れられない。

 

戦い続けることで得られる幸せと、逃げ続けることで得られる幸せ。

 

本当の幸せは、どちらだろうか。

 

 

 

一度逃げてしまった僕にはもう、戦い続けることで得られる幸せは手に入らない。

だけど、逃げ続けることで得られる幸せなんて、欲しくない。

 

毒に侵されて朽ち果てるのが先か。

刃に貫かれて動けなくなるのが先か。

何れにせよ、本当の幸せを手に入れる為には戦うしかない。

自分が戦える時に、自分の戦いたい場所で。

 

少し傷は負ったけれど、僕はまだ生きている。

もう、覚悟は出来ている。

 

僕の戦いは、これからだ。

勝つ為ではなく、負けない為に戦うのだ。

 

 

 

 

 

負け犬のまま、終わってたまるか。

 

 

 

明日

明日のことは誰にも分からない。

 

希望に満ち溢れているのか。

はたまた絶望に打ちひしがれているのか。

 

分からないことが怖い。

ただ待ち続けることが不安だ。

 

明日が怖い。

明日が不安だ。

 

それでも、明日は訪れる。

恐怖も、不安も、夜に隠して。

 

死んでしまえば、楽になるかもしれない。

明日が無くなれば、恐怖も不安も消えてくれるかもしれない。

 

死にたい理由と死ねない理由が頭の中で蠢いている。

死ぬ勇気さえ持てない自分自身をただただ呪って生きている。

 

あとどれくらい、こんな夜を越えていかなければならないのだろう。

いつから生きる理由から目を逸らして、死ぬことばかり考えるようになったのだろう。

 

 

 

 

 

僕は、夢を見る。

あなたに、おやすみと言う度に。

 

僕は、明日を待つ。

あなたに、おはようと言う為に。

 

 

 

曇天

本日も、空は曇天なり。

 

陽の光に焼かれるわけでもなく、降り注ぐ雨に濡れるわけでもない。

世界を照らすか濡らすか、その境界線を綱渡りしているような、この空が僕は好きだ。

 

何より、曇天は誰の足元にも影を作らない。

そういう意味で、曇天というのは優しい空だと僕は思っている。

 

 

 

ほんの些細なことで、死にたくなって。

ほんの些細なことで、また生きたくなって。

頭の中ではそんなことばかりを考えている。

晴天でも雨天でもない空模様と、中途半端な自分自身を、無意識に重ねてしまっているのかもしれない。

 

 

 

景色は少しずつ、確実に変わっていく。

自分自身の心も、周りを取り巻く環境も。

 

全てが少しずつ、確実に終わっていく。

自分自身の命も、夢を見ていたあの日々も。

 

 

 

雲が割れて、光が差し込む瞬間を、少しでも美しいと思うことが出来るなら。

今、目の前にある景色を心から愛することが出来るのだろうか。

 

雲が濁り、雨の気配が漂う瞬間を、少しでも感傷的に思うことが出来るなら。

これから変わりゆく全てを受け入れて生きることが出来るのだろうか。

 

 

 

本日も、空は曇天なり。

 

音楽

ロックの日に因んで、音楽の話を。

 

 

 

音楽なんてものは、人間が生きていく上では多分必要無い。

尤も、これは音楽だけに限ったことでは無い。

芸術と呼ばれるもの全般に同じことが言えるのではないかと思う。

 

酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出して、水を飲んで、日の光を浴びて、食べて、排泄して、動いて、疲れたら眠る。

目が覚めたら、また同じことを繰り返す。

極論を言えば、これだけのことで生きていける。

 

僕自身、幼い頃は音楽に対してそこまで興味を持っていなかった。

音楽の授業でテストがある時には、気恥ずかしさで逃げたくなるくらいだった。

 

 

 

だけど、僕は音楽に救われた。

たった一曲の、たった一節に救われた。

 

親や友人、恋人…信頼している人からのどんな言葉よりも、会ったこともない人の想いが心に深く突き刺さってしまうことがあるのだ。

誰にも覗かれないようにと必死に築き上げた心の壁が、どういうわけか音楽には通用しなかった。

ただ生きるだけなら必要の無いものだと思っていた音楽に、僕は救われてしまった。

音楽のことを、もっと知りたくなった。

 

音楽に魅せられてからというもの、狂ったように色々な音楽を聴き漁った。

音楽を通してたくさんの人と出会い、音楽を通してたくさんのことを学んだ。

音楽に出会ってから、間違いなく僕の人生は豊かになった。

音楽に出会ったことで変わってしまったこともあるけれど、音楽に出会わなかった人生を想像すると戦慄する。

 

ただ生きるだけなら必要の無いものである筈なのに、時代を超えて人の心を支え続け、人の心を彩り続けている。

だからこそ、音楽はいつの時代も人に愛されて、今日の日まで生き続けてきたのだと思う。

 

気が付いたら、音楽は僕の人生の一部になっていた。

気が付いたら、音楽は僕の人生に欠かせないものになっていた。

 

音楽なんて必要無いなんて、もう言えなくなっていた。

 

 

 

今まで色々なことがあったけれど、音楽に救われたこの人生に、今では感謝している。

 

誰が何と言おうと、僕は音楽を愛している。